メディアでフジ“中居”騒動が取り沙汰されていますが、その陰で、私たち国民に不都合な変化が進んでいます。1月24日に、日銀が政策金利を0.5%へ引き上げる利上げを決定しました。これにより、住宅ローンを抱えている人は支払いが増えます。例えば、約1年前に変動金利で4500万円を35年ローンで借りた世帯の場合、毎月の返済額が8000円増えるようです。年間9万6千円です。
それ以外にも、生活コストは軒並み上昇しています。ガソリンのレギュラー1㍑の実売価格は2024年2月時点で160.8円でしたが、2025年2月は170.7円です。1年前の6%値上がりしています。(ちなみに2020年5月の時点では117.9円でした。約5年前の44.8%値上がりしています)これはあらゆる物流コストに上乗せされますので、諸物価も当然上がります。
上記の金利が0.5%で済めばよいですが、それ以上に上がったら、2009年にアメリカで起きたサブプライムローンのような騒動が起きかねないと懸念される状況です。
これらの支出増に見合うだけの賃上げを政府は奨励しており、巷では、初任給が30万円や40万円超えの大手企業が出てきています。ユニクロ30万円→33万円(1・2年で店長になれば41万円)、ダイワハウス25万円→35万円、三井住友銀行が25.5万円→30万円、東京海上日動火災保険28万円→41万円など。さすがに大手企業の賃金はメリハリが抜群です。中小企業は、優秀な人材の採用合戦にはなかなか同じ土俵で戦えませんので、賃金以外の部分で職場の魅力をアピールすることが求められます。
そして、これらの生活コスト上昇や賃上げニュースの情報を目にすると、既存スタッフの中から、賃上げに対する要望の声が大きくなります。自分の能力を棚に上げて、感情的に不平不満を口にする従業員も・・・。
このようなとき、中小企業の経営者はどうすべきなのでしょうか。
その答えは、「迷える子羊たちに、世間のスタンダードを教えて差し上げ、自助努力で自身の厚遇を勝ち取れるように目線を上げていただく」ことです。
とかく、隣の芝は青く見えます。大手企業の初任給が上がって羨ましく感じるかもしれません。しかし、その一方で、大手企業では早期・希望退職者を大量に募っています。その現実を知らずに、初任給アップのニュースだけをみて表面的に嘆くのは、ちょっとナンセンスです。
元々、早期・希望退職者を募る企業というのは、業績が苦しい企業と考えられがちでした。しかし、本来のリストラクチャリングとは、組織再構築という趣旨です。人材を大量採用して、その中から戦力となる何割かの逸材を重用しつつ、戦力外の残念な人材に辞めてもらうのが組織再構築です。それが顕著なのは、プロのスポーツ選手の世界です。オフシーズンに戦力外通告がされるのは日常ですし、そこにお情けはありません。浮いた原資を、フレッシュな戦力の調達に使い、新陳代謝させていく。完全な実力勝負です。
そういった新陳代謝の趣旨で、リストラクチャリング経営を推進する企業がジリジリと増加しているようです。東京商工リサーチの調査によると、2024年の希望退職募集は前年比3倍に増加し、年間1万人を超えました。そして、その企業のうち6割は黒字です。黒字でも希望退職者を募る趣旨は、資力・体力のあるうちに、組織再構築をしているということです。
語弊がありますが、「残念な社員(初任給をアップして大量に採用したけど当てが外れた若手も含む)に辞めてもらいつつ、本当に優秀な社員を重用していく」ということは、古き良き日本型経営の感覚からすると、なかなかドライな経営のように感じます。しかし、組織の新陳代謝のためには仕方のないことですし、解雇せずに希望退職者を募るという点では、とても優遇されています。
ちなみに、2024年の世界競争力ランキング上位の国は、1位シンガポール、2位スイス、3位デンマークですが、いずれも従業員の解雇は基本的に自由です。プロのスポーツ選手の世界のように、いつ戦力外通告されてもおかしくないという緊張感がある国は、生産性や競争力が高いということです。
では、日本の国際競争力ランキングの順位はどうか。かつてはジャパン アズ ナンバー1といわれましたが、実に38位と低位安定し、3年連続でランクダウンしています。この要因はいろいろありますが、一つには、日本は一度採用したらどんなに残念な社員でもなかなか解雇できないという要素が挙げられます。終身雇用制が担保されていた時代は、中小企業のみならず大手企業にも家族的ムードがあり、会社のお荷物になっては皆様に申しわけないと考える従業員が大半でした。バブル入社組の私も大手企業でそう感じていました。しかし、昨今では、権利ばかりを主張して、何も貢献しなくても厚遇してもらえると錯覚した従業員が増え、(語弊がありますが)大きなお荷物になってしまっているように懸念されます。
経営者にしてみたら、(語弊がありますが)「働かざる者食うべからず」と考え、お荷物の残念な労働者はDXで省人化し、AIに任せる方が賢明と判断しているのかもしれません。そして、黒字のうちに希望退職者を募り、手切れ金(割増の退職金)を添えてでもお荷物の残念な社員にお辞め頂くという様子が、東京商工リサーチの調査から読み取れます。
この様子は、労働集約型の中小企業でも十分に起こりえます。
例えば、人間の耳鼻科では花粉症の季節に混み合います。経営センスのいいドクターは、1時間に30人診察するということがあります。1人2分で診ている計算です。その秘訣は、電子カルテの入力に専念してくれるクラーク(秘書の様な入力係)を1~2人配置して、分業制によりドクターの生産性を高めています。クラークの人件費が20~40万円かかりますが、それでも生産性を上げた方が得策なのです。ただし、クラークが「子供が熱を出したのでお休みします」とか「子供の卒業(園)式があるので休みます」「子供の入学(園)式があるので休みます」という状況に陥るとシフトに穴が開きますので、なかなかマネジメントが困難です。
これは子育て世代を雇用する上では仕方のない事情ですし、人手不足時代ではよくあるという前提で考察しますが、このようなとき、もしもAIが5秒でSOAP対応のカルテを作成してくれるのであれば、その方が経営は安定します。患者さんをお待たせすることも回避できます。そのコストが2万円であれば、経営者がDX(デジタル化)へと舵を切るのは必然でしょう。
希望退職募集が前年比3倍に増加して年間1万人を超え、その企業のうち6割は黒字という事実。そして、あらゆる民間企業で議事録業務等のDX(デジタル化)が促進されている現実。これらには相関関係があると考えるのが自然でしょう。
しかし、中小企業の経営者は、なかなか手切れ金(割増の退職金)を添えて残念な社員にお辞め頂くことは、金銭的にも心情的にもできないことでしょう。
そうであるならば、上手に経営していくしかありません。例えば、以下の(1)~(4)のような手順で「迷える子羊たちに、世間のスタンダードを教えて差し上げ、自助努力で自身の厚遇を勝ち取れるように目線を上げていただく」ことが肝要です。この場合の世間のスタンダードとは、社会人としての常識や、手に職をつける方法等を指します。老子の言葉でいう”魚を与えるのではなく釣り方を教えよ”という趣旨です。
(1)同業他社と経営数値の比較をしながら、自社がフェアに経営していることを、決算書というエビデンスを交えて従業員に丁寧に説明します。そうすることで、会社に対する理解と満足度が深まります。そのうえで、会社の事業計画を説明し、協力してもらえるように合意形成するのが肝要です。(決算書などを公表する経営手法を、オープンブック経営といいます。詳細はコチラを参照ください)
(2)会社に対する理解と満足度が高まったら、生産性をスムーズに向上させる育成システムを整備します。(育成システムについてはコチラを参照ください)
(3)育成システムに紐づいた賃金体系を整備します。(賃金体系についてはコチラを参照ください)
(4)賃金とは、労働の対価ですから、働かなければもらえません。ノーワーク・ノーペイの原則は労働基準法に謳われている通りです。そして、何もしなくても大盤振る舞いされるわけがなく、悪しき平等主義は、建設的な賃金体系には必要ありません。会社に貢献した人が公平に然るべき報酬を受け取るのが当然です。つまり、信賞必罰でお支払いしますよ、というのが世間のスタンダードということを説明します。
いかがでしょうか。上記の(1)~(4)は、一般的な普通の社員にはそもそも初耳なのか、なかなか理解されていないように現場で感じます。中小企業の経営者だって、忙しさに感けてこれらをトリアージしてしまい、曖昧なままに経営していることが多いとお見受けします。
心理的安全性が求められる昨今の職場ですが、母性で優しく居心地の良さを提供するだけでなく、父性で世の中の厳しさをそっと教え、「この職場に居れば、しっかりと手に職がつくし、明るい未来が待っている」と実感させてあげることが、健全な家族的経営のバランス感覚だと思います。
賢明な大手企業はこれらの対策にしっかりと時間とコストと人数をかけており、そのうえ初任給もアップしてきています。
中小企業が100年繁盛するためには、賃金の大盤振る舞いが出来るとは限らないからこそ、資力・体力のあるうちに(1)~(4)を整えて、上手に経営していくことが肝要です。
【まとめ】
・巷では、初任給が30万円や40万円超えの大手企業が出てきている
・その一方で希望退職募集が前年比3倍に増加して年間1万人を超え、その募集企業のうち6割は黒字(すなわち、ザ・リストラクチャリングが増殖中)
・中小企業は従業員に家族的&寄り添った経営をしていくことが肝要
・資力・体力のあるうちに、オープンブック経営、育成システム、賃金体系などで、公平な人事評価制度を構築して、夢のある職場にしておくべし