7月に入ると、北海道を含め、春の予防シーズンがひと段落します。
動物病院の現場では、
春(繁忙期)に入社した新人さんへの初期教育になかなか時間が割けなかった場合、
夏はリカバリーを試みる時期だったりします。
初期教育で教えておくべきは、仕事のスタンスや職業観です。
もちろん、新人さんに学んで欲しい実務はたくさんあるので、
どうしても実務の教育に偏りがちですが、
初期教育で仕事のスタンスや職業観の啓蒙・啓発を端折ってしまうと、
単に労働基準法に則した考え方だけで働く残念なワーカーになりかねません。
そこで、我々のクライアントでは、
実務は実務で査定表に基づいてOJTやPDCAで学んで頂きつつ、
それとは別に、初期教育で仕事のスタンスや職業観を啓発・啓蒙します。
なぜ、このように初期教育での仕事のスタンスや職業観を啓蒙・啓発するのか。
それは、スタッフの目線を上げるためです。
1947年に制定された労働基準法的な考えでいくと、
提供した労働時間の対価が報酬です。
しかし、サーカスの熊じゃあるまいし、
エサ(報酬)が貰えるから芸(仕事)をしますなんて、
現代の人間様のあるべき姿ではありません。
タイムカードをスタンプしさえすれば、
お給料をもらえる。それはその通りです。
しかし、その最低限の報酬から物心共にプラスアルファが望めるかというと、
答えはノーです。
単に労働基準法に則した考え方で働くだけの残念なワーカーやそのような職場には、
明るい未来は訪れず、幸せな人生はなかなか全うできないでしょう。
いわゆるホワイト企業だったとしても、
やりがいを感じられなければ、退職代行を使って退職するご時世です。
やはり、睡眠時間を除き、人生で最も多くの時間を費やすのは仕事ですから、
仕事でやりがいや働きがいを実感することで幸福度は高まります。
会社ですから、最低限の法令は順守するとして、
生産性を高めるためにも、
そしてスタッフのQOLを向上させるためにも、
仕事のスタンスや職業観を啓蒙・啓発しておく必要があるのです。
仕事のスタンスや職業観にはいろいろありますが、
一例を挙げると、「仕事の報酬は仕事」という考え方があります。
どういうことかを、現場に則して検証してみましょう。
現場での新人スタッフは、分からないことだらけです。
いちいち先輩に確認をしたり、
指示をされながら、どうにかこうにか仕事をこなします。
「アル綿の補充は欠かさずしようね」
「セロテープはここに置こうね」
「処置室でエマっているときはアル綿の補充は後回しにしてサポートするのよ」
「伝達ミスはしないでって言ってるでしょう、普段からメモしてる?」
「会計ミスはしないでって言ってるでしょう、普段から計算は大丈夫?」
「調剤ミスは絶対しないでって言ってるでしょう、医療過誤の責任とれるの?」
など、それはそれは不自由な状況です。
この不自由に対して、
「だって、教わってないもん」とか、
「上長や先輩のモノの言い方がブラックでイヤ」とか、
「パワハラじゃね?」とか、
新人スタッフなりの言い分があるかもしれません。
不自由に耐えかねて、
不貞腐れてしまうかもしれません。
しかし、それではいつまで経っても仕事のステージは上昇しません。
ステージが上昇しないのは本人の自己責任ですが、
その本人が権利ばかり主張して、
事実誤認や他責発想からのブラック呼ばわりやパワハラ呼ばわりされたら、
会社としてはたまったものではありません。
法令や規則等をろくに理解もせず、
ハラスメントの定義も知らずに、
周りに八つ当たりするような程度の低いスタッフは、
経営者にとって頭痛のタネです。
本来であれば、新人さんに社会人のイロハを教えるのは
先輩社員やベテランスタッフが適任なのですが、
下手にパワハラ呼ばわりされたらバカバカしいですから、
先輩やベテランは「我、関せず」となりがちです。
対症療法的に、経営幹部がコミュニケーション論を学んだり、
リーダーシップ研修等を強化する選択肢もありますが、
それは対症療法に過ぎないでしょう・・・。
さりとて、スグに根治療法が望めるほど問題はシンプルではありません。
そうであれば、先制的予防として、
早い時期にスタッフへ仕事のスタンスや職業観を啓蒙・啓発すべきでしょう。
理想論ですが、例えば、サッカー日本代表を率いる森保監督は、
ベテランの長友選手にその役割をお願いしているようにお見受けします。
日本代表として戦うスタンスや考え方を若手に上手に伝えてくれているようです。
これは、長友選手のような強いメンタルがあればこそ、可能かもしれません。
しかし、一般的には、ベテランや中間管理職に「耳の痛い話」を新人にするように任せると、
上記の「我、関せず」との葛藤から、ベテランや中間管理職の負担になります。
その負担が慢性化すると、ベテランは離職してしまいます。
そうならないようにするには、第三者的な外部の人と打ち合わせをし、
若手・新人向けに研修を受けさせるのが現実的です。
若手・新人は「耳の痛い話」を毛嫌いするものですが、
経営者や院長が明確な会社方針として研修を受けるよう、
覚悟をもって業務命令するべきでしょうね。
「この(外部の)人の研修を受けないのなら、
辞めてくれていいですよ」くらいの気持ちで。
「仕事の報酬は仕事」の検証を続けます。
新人スタッフは、誰しも仕事に不自由さを感じるものです。
不自由は、先輩方がみんな通ってきた道です。
そのような不自由を脱却して、
仕事を自由に任せてもらえるようになったときの解放感が、心の報酬です。
いわば、「人は自由を獲得するために働いているようなもの」です。
上司や先輩からすると、
新人スタッフが安心して任せられるようになってくれれば、
少しづつハイレベルな、やりがいの感じられる業務を任せられます。
そして、
「〇〇が欠品しないようにするには、発注をどう工夫したらいい?」
「無影灯に埃が溜まらないようにするにはどうしたらいい?」
などなど、先輩から仕事はどんどん振られます。
そして、院長や患者さんから「ありがとう」と言われることで、
新人スタッフも自分の存在意義を実感できます。
この充実感が、働きがいや、やりがいなのですが、
この感覚というのはスグに得られるものではありません。
そのように感じられるまで、辛抱と努力が必要です。
素直に実直に仕事を頑張り、
職場での実績と信頼を勝ち取ることが出来ると、
「じゃぁ、◇◇の麻酔管理はAさんやってみようか」
「じゃぁ、〇〇のオペ看はBさんね」
「じゃぁ、△△の執刀はCさんやってみて。マージンはこれくらいで…」
という具合に、仕事のステージが上昇していくでしょう。
つまり、「仕事の報酬は仕事」なのです。
その連続で、気付いたら勝手に成長しているのです。
すると、物心共に報酬がついてくるのです。
かつてジャパン アズ ナンバー1といわれ、
「24時間戦えますか」が流行語になった1980年台後半であれば、
「仕事の報酬は仕事」というのは
当たり前であり常識でありイロハのイだったわけですが、
いつの間にか勤勉な日本人に怠け者が増殖してしまい、
現場でのハレーションに苦しむ経営者が多発している昨今です。
皆様の現場では如何でしょうか。
繁忙期は猫の手も借りたいくらい忙しく、
新人といえども実務教育で精一杯だったかもしれません。
しかし、夏からでも、初期教育のリカバリーに着手いただけば、
組織をさらに生成発展させられるのではないでしょうか。
【まとめ】
・法令は遵守しつつも、人材育成には戦略が必要。
・まずは仕事のスタンスや職業観を適切に啓蒙・啓発していくこと。
・実務は実務で査定表に基づいてOJTやPDCAで教えていくこと。
・仕事の報酬は仕事。