金融機関というのは、「雨の日に傘を貸して、晴れの日に傘を貸さない」と言われます。ドラマ「半沢直樹」の回想シーンのように、金融機関に酷い目に合うイメージがあるかもしれません。しかし、金融機関にも言い分があります。金融機関がいいかげんな仕事をしていたら、貸したお金を返済してもらえなくなります。放漫経営の会社にはそれなりの警戒をし、頑張っている会社を応援するのは公平であり、金融機関として当然の判断です。
ですから、経営者は金融機関をビジネスパートナーとして考え、彼らといかによいお付き合いをしていくかを考える必要があります。例えば、政府系金融機関とか、静岡銀行さんとか、審査の厳しい金融機関に融資を申し込んだとき、自社がどう評価されるのか。彼らの判断でGOサインが出れば、その会社は見込みがあると考えることができます。
そういう話になると、「いやいや、うちは無借金経営だから金融機関には頼らないよ」という経営者がいらっしゃいます。それはそれでよいのですが、肝心なのはその財務内容です。無借金だったとしても、現預金が月商の何倍あるのか?例えば1か月未満だったら、イザというときにどうするのか?そのような会社に、上記のような金融機関は渋いです。この場合のイザというのは、ネガティブな場合もあれば、逆にポジティブな場合もあります。例えば、予防シーズン前のボリュームディスカウントで予防薬をまとめて仕入れたいとき。エコーが故障して、最新の機器を導入するとき。そして、医療機器が1つ故障すると何故か伝染するかのように同じタイミングでもう1つ2つ故障したとき。設備投資(CT導入&増築など)をするとき。手狭になって移転リニューアルするとき。掘り出し物の事業承継案件が舞い込んできたとき。等々、枚挙に暇がありませんが、潤沢な現預金がなければ、即断即決でチャンスの女神の前髪を掴めません。
やはり、個人はともかく法人の場合は、「うちは無借金経営だから」と述べるのは、「うちは成長意欲がありません」と自白しているようなものですから、経営者たるもの、財務戦略を軌道修正するべきです。金融機関をビジネスパートナーとして考え、彼らといかによいお付き合いをしていくかを考えた方が賢明でしょう。
現預金というのは、例えるならば、企業にとって血液のようなものです。オペに力を入れている病院は特にそうですが、輸血のための供血犬を侍らせたりすると思います。そのような臨床家の感覚からしたら、輸血のスタンバイをしておかないのは、あり得ない話だと思います。同様に、融資による資金調達も、備えておくものなのです。金融機関をビジネスパートナーとして、(語弊がありますが)供血犬のように、普段から感謝して仲良くするのが、上手な経営です。現預金は、できれば3か月分位を持っておくべきだと思います。もちろん、ペイオフ対策として、1か所の金融機関に1000万円を超えないように、複数行に分散するのは言わずもがなです。
新規で融資の申し込みをすると、金融機関の審査が通るかどうか、通るにしても審査に時間がかかります。また、融資の条件として担保提供とか経営者保証を迫られることもあります。企業側に時間の猶予がなければ、その条件を応諾せざるを得ません。全てが後手に回ってしまいます。従いまして、時間的に余裕のある普段から、金融機関との付き合い方をプロアクティブに考慮しておくのが賢明です。必要がなくても、少額でよいので好条件で借りられるものは借りておきます。そして、返済実績を積んでおくのです。低金利時代の金利は安いですし、そもそも金利は経費になります。
もしも新しい金融機関の担当者が飛び込みで営業に来たら、無下に追い返してはいけません。彼らはそれなりの下調べをしてから来訪する場合が多く、大抵は好条件を提示します。丁重にお迎えするべきでしょう。そして、一通りお話を聞いて、提案内容が好意的に記載された書類を受け取ります。その書類を後日メインバンクの担当者にみせて、「どうしたらいいですか?」と尋ねることです。すると、こういった情報のやり取り自体は健全な商習慣ですので、メインバンク側は、「他行がこの条件を出しているのなら安心だ。稟議も通りやすい」とポジティブにとらえ、もっといい条件を“負けじ”と提示してくれることがあります。このような積み重ねで、金融機関との条件をよくしていくのです。
以上のようなプロセスで、長期借入金を増やし、現預金も増やすと、貸借対照表の貸方の負債の部は固定負債が増えることになります。(流動負債は増えません)
そして、貸借対照表の借方の試算は、一番上の現預金が増えることになります。
この状況になるように働きかけると、流動比率が上昇します。この流動比率は、今後1年以内に予定される支払いをカバーできる手元資金があるかどうかの指標で、流動資産を流動負債で割って求めます。この数値(%)は財務戦略のバイタルサインのようなもので、それこそ体温や心拍数や呼吸数並みにまずチェックする指標です。犬の体温が38~39度だったら健常であるように、流動比率にも基準値があります。およそ150%あれば健全でしょう。
(「財務基盤を強化する」に関してはコチラでも触れていますので、ご参照ください)
金融機関との付き合い方を見直したい方は、一度ご相談ください。
【まとめ】
・金融機関はビジネスパートナー。
・まじめにやっていれば応援してくれるのが金融機関。
・個人はともかく、法人の場合の無借金経営は芳しくない。
・現預金は企業における血液のようなもの。
・金融機関とのパイプを整えておくのが経営上手。
・財務のバイタルサイン(流動比率など)は要チェック。