世の中は値上げラッシュです。新卒の初任給が30万円を超える企業が金融大手で相次いでいます。また、平均的な人件費も上昇しています。最低賃金の全国加重平均は2023年で1004円でした。2024年10月からは1054円に上がっています。そして、全国一律1500円を目指すという声もちらほら。
このような人件費が上昇するご時世、旧態依然とした料金設定では適切な利益がなかなか確保できませんので、上手に料金体系をアレンジしたいところです。2025年の経営環境は、不況期に対応する戦略を執ることが求められます。
ただし、安直な値上げは客離れを招きますので、注意が必要です。商品というのは、大別して「生活必需品」と「非日常の趣味・嗜好品」に分かれますが、それぞれに値上げのコツがあります。特に前者の「生活必需品」を乱暴に値上げすると、商売は一気に停滞しますので、細心の注意を払う必要があります。
反面教師となるのが、フライドチキンのケンタッキーさんです。元々、ケンタッキーさんは12月のクリスマスシーズンに強く、ハレの日に売れる商品でした。それを、日常的にもご利用いただこうと、2018年からチキン、メイプルビスケット、ポテト、ドリンクがついて500円というランチセットを展開しました。「今日、ケンタッキーにしない?」というキャッチコピーのTVCMをご記憶されているかもしれませんが、「非日常の趣味・嗜好品」だけでなく、「生活必需品」というニーズを深耕し、功を奏していたのです。そして、コロナ禍によるテイクアウトニーズがケンタッキーさんの売上拡大の追い風となりました。その後、強気の値上げを繰り返したところ、客離れが起きてしまい、苦戦していらっしゃいます。後手後手で値下げキャンペーンを繰り出していらっしゃいますが、なかなか立て直しが捗らず、2024年に上場廃止&株主の三菱商事が撤退&米投資ファンドの傘下になってしまいました。この苦戦にはいろんな要因があると思いますが、顧客をあまり観察していなかったのではないでしょうか。最近の福袋や食べ放題のキャンペーンが吉と出るか、見守りたいところですが、どうも「非日常の趣味・嗜好品」としてのキャンペーンのように感じられます。やはり、今のご時世を鑑みると、顧客は節約志向が強くなっていますので、「生活必需品」としての打開策に期待したいところです。
それでは、不況期に「生活必需品」の価格をアレンジするにはどうしたらよいか。値段を上げながら、お得感を出すのがセオリーです。車の運転に例えると、アクセルを踏みながらブレーキをかけるようなものです。そんなことが出来るのでしょうか?答えはイエスです。顧客をよく観察して、節約志向の消費者への懐柔策を添えて展開すればよいのです。
分かりやすい例を挙げると、10分で散髪してくれるQBハウスさんが好例です。駅や商業施設のお手洗いの傍によく出店していらっしゃいますので、ご存知のことと思います。彼らの料金は、創業当時の1990年代は、10分1000円を謳い文句にしていましたが、消費税UPや最低賃金の上昇に伴い、ジリジリと値上げされています。2024年の時点では、10分で1350円です。そして、2025年2月からは1400円に上がります。やむを得ない値上げだと思いますが、QBハウスさんは上手な展開をしていらっしゃいます。従来は、65歳以上の方限定で、前回の利用から翌月末までに利用すると100円引きでした。それが、2025年2月からは誰でも100円引きが適用されます。つまり、1350円が1400円に値上がりするのですが、来店間隔の短いヘビーユーザーに対しては、1300円に実質値下げしているのです。
顧客管理の手法で、RFM分析というものがあり、「R:最近いつ来店したか」「F:来店頻度は頻繁か」「M:累計購買金額は大きいか」などを切り口に、優良顧客をえこひいきする経営手法があるのですが、QBハウスさんは顧客をよく分析し、「R:最近いつ来店したか」という観点を重視して、来店間隔の短いヘビーユーザーこそが「生活必需品(サービス)」を提供する店舗には大切な顧客だと考えていることが伺えます。
動物病院であれば、「生活必需品」はフィラリアやノミ・ダニ等の予防、狂犬病注射、ワクチン、健康診断などです。病気にならないための体づくりという“ウェルネス”の概念で、患者さんをよく分析し、丁寧に展開することが肝要です。原価が上昇していますから、値上げせざるを得ませんが、如何にリーズナブルに展開するかが問われます。そして、病気になった時は「非日常の趣味・嗜好品」として、高度医療をしっかり提供していくことが求められます。
トリミングサロンであれば、「生活必需品」のシャンプー、トリミング(カット)をアレンジして、如何にリーズナブルに値上げするかが問われます。
いかがでしょうか。2025年は景気が悪化すると考えられますので、地に足の着いていない事業者は淘汰されるでしょう。顧客をよく分析し、とくに「生活必需品」を大切に扱い、地に足の着いた経営をされることで、サバイバルが可能です。ピンチはチャンスと受け止めて、強かに生き残り、未来に向かってシェアを拡大していきましょう。
【まとめ】
・商品というのは、大別して「生活必需品」と「非日常の趣味・嗜好品」がある
・「生活必需品」を乱暴に値上げすると、商売は一気に停滞する
・不況期に「生活必需品」の価格をアレンジするには、
値段を上げながらお得感を出すのがセオリー
・2025年は景気がさらに悪化するが、ピンチはチャンス