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不況期でも繁盛するマーケティング

百貨店には2種類あります。
呉服屋系百貨店と電鉄系百貨店。

呉服屋系の百貨店は、都市の一等地に鎮座し、
最上階で催し物をして集客し、
”シャワー効果”で下のフロアーに客を回遊させる
というビジネスモデルでした。

電鉄系の百貨店は、
ターミナル駅から利便性の良い立地を選び、
日常生活に根差した豊富な品揃えの食料品(デパ地下)で集客し、
”噴水効果”で上のフロアーにも回遊させるというビジネスモデルです。

昨今では電鉄系の百貨店が上手に時流適応しています。

1929年に小林一三氏が大阪梅田に創業した阪急百貨店。
電鉄系の百貨店の元祖であり、地に足の着いた百貨店です。

その96年後の2025年5月16日、
阪急沿線のターミナル駅「川西能勢口」にある阪急百貨店が、
川西阪急スクエアとしてリニューアルのグランドオープンをしました。
百貨店と専門店がひとつになって、
新しいデパートメントモールの誕生です。

SC(ショッピングセンター)というのは、
スーパーが核テナントになったものが大半です。
百貨店が核テナントになったものは全SCの2%くらいです。
その百貨店が核テナントになったSCで、
川西阪急スクエアはどのような展開をしたのでしょうか。

恐らく、表面的にみたら、
「なんだ、イオンモールと変わらないなぁ…」
と感じることでしょう。
それくらい、奇をてらっていないです。
しかし、私どものような小売・サービス業の舞台裏側の者からすると、
その奇をてらっていない点が「さすが阪急さん!」なのです。
商売のセオリーをしっかりとフル活用して、
玄人好みの秀逸なご商売をされているようにお見受けします。

例えるならば、
スター選手がいなくても、
プロ野球ヤクルトスワローズを日本一にした、
故 野村克也監督のID野球のようです。
蛇足ですが、兵庫県川西市は、
野村監督の元で日本一になった古田敦也さんの出身地で、
古田さんは川西市の名誉市民です。

話を戻します。
川西阪急スクエアは、
電鉄系百貨店の得意技であるデパ地下は相変わらず充実の品揃えですが、
上層階のリニューアルが注目に値します。
百貨店の上層フロアーは電鉄系と言えども
ハイグレードな商品が並ぶことが多いのですが、
噴水効果で各フロアーのシナジー効果を追求するうえで、
同店では2階にファミリア(子ども服屋)が鎮座してます。
グランドオープン初日に最も賑わっていたのが、ファミリアでした。
ファミリアの限定品を買い求めるママさんやじいじ&ばあばが長蛇の列でした。
10万円以上するランドセルもカラフルに陳列されていました。
(受注販売のため、期間限定のサンプル陳列です)

さらに上層階に行くと、
日常生活に寄り添った店舗が揃っています。
くまざわ書店(本屋)、
J!NS(眼鏡屋)、
GU(衣料品屋)、
シープラ(カプセルトイ屋)など、
何処にでもある店舗が登場しました。
パッと見、イオンモール等のSCと変わらないのですが、
「百貨店でございます」という敷居の高さを潔く排除し、
噴水効果による回遊性を追求した店舗構成が印象的でした。

イオンモールのように一般化した日用品・必需品をあえて扱うというのは、
マーケティングの世界ではコモディティ化といいます。
下手をすれば陳腐化しやすく、競争市場での優位性を失うリスクがあります。
しかし、あえてその方向へ舵を切ったということが、
時流を読み解くヒントになります。

景気が後退していく中でインフレーション(物価上昇)が
同時進行する現象をスタグフレーションと言います。
日本はスタグフレーションではないと言われていますが、
現場の肌感覚では、スタグフレーション化しつつあると感じます。
日本人の可処分所得は低下している、
もしくはお財布の紐が固くなっているのが現場感覚です。

では、これから先のマーケティング戦略は、
何に注意したらよいのでしょうか。
それは、コモディティ化を推進することと、
限定性を訴求することでしょう。
あまり敷居を高くしてしまうと、
お財布の紐が固いがゆえにスグに敬遠されてしまいます。
一方、あまりにもコモディティ化を進めてしまうと、
スグに陳腐化して埋もれてしまいます。
ゆえに、コモディティ化 × 限定化が
スタグフレーション気味のご時世における
マーケティングのヒントになると思います。

限定化マーケティングとは、
「今だけ」
「ここだけ」
「あなただけ」
が王道です。

「今だけ」というのは、タイムセール等です。
日配品などを20%→30%→半額などのように
閉店時間に向けて売り切る(商品回転率を上げる)ために割引します。
マークダウンで消費者を殺到させる売り方です。
高級品(ファミリアのランドセル等)であれば、
「2025年7月24日(木)までご注文分は
年内にお渡しいたします」といった訴求です。

「ここだけ」というのは、
お菓子の限定品とか、
こども服の限定品などのように、
その店舗でしか入手困難なレア商品を打ち出して、
事前整理券を配布し、
行列を創造する売り方です。

「あなただけ」というのは、
ポイントカードです。
1%程度の還元率ですが、
貯まったポイントは1ポイント1円として使用できます。
ちなみに、顧客管理(CRM)のセオリーとしては、
最終購入日(Recency)、
購入頻度(Frequency)、
購入金額(Monetary)を加味して、
えこひいきすべき顧客を抽出します。
阪急百貨店では、それらのセオリーとは別に、
会計時に有効期限が切れそうなポイントがあれば
レジで主体的にアナウンスして差し上げ、
ポイントの使用を促すことがあります。
「お、親切に教えてくれてありがとう」
「じゃぁ、使います」
というようなタイミングでポイントを使用すると、
後日クレジット機能付きのポイントカードの案内が郵送され、
ポイント還元率を優遇するオファーが顧客に届きます。
年間の購入金額に応じて、
ポイント還元率が5%、7%、10%と優遇されます。

なお、ポイントカードで肝心なのは、
キャッシュバックのような愚策をしないことです。
もしも100円のポイントで100円をキャッシュバックしてしまうと、
売手は100円分そのまんま損してしまいます。
その100円を挽回するためには、他で何倍も売らねば元が取れません。
一方、100円で売っているものに100円のポイントを使用した場合は、
売手はその販売した商品の原価分しか損をしません。
この微差が大差になってしまうのが、大衆向けの事業です。

このような施策は、
小売・サービス業では古典的ですが、
現在でも切れ味抜群のセオリーです。
小売・サービス業という古くから存在する業種の現場経験があると、
他のどんな業種(動物病院や、トリミングサロンなど)でも
アレンジして業績アップの貢献をすることができます。
逆にいうと、古典を知らずに流行りのビジネスで飯を食っていると、
本格的な不況期には行き詰まってしまうものです。

不況期に好調な我々のクライアントは、
基本的に古典的なセオリーを遵守しています。
開業何十年も経っている既存病院でも、
今年の春は前年比2桁成長がザラです。
好調の要因を挙げるのであれば、
セオリーを重視していることです。

例えば、WEB広告等にはあまり費用を投下しません。
(WEB広告のサポートもしますが、あまり深追いはしません)
一般的に、新規客を獲得するためのコストは、
固定客を維持するコストの5倍かかると言われています。
無理に新規患者の開拓はしなくとも、
勝手に集まるようにしています。
そして、固定患者をしっかりグリップすることを重視しています。

例えば、予防シーズンであれば、
予防シーズン限定のDMを郵送し、
「今だけ」
「ここだけ」
「あなただけ」
のオファーをしています。

例えば、低価格高頻度商品(予防など)を
選びやすくメニュー化し、
各種えこひいき特典を付与しています。

例えば、ディスカウントは極力しませんが、
次回以降使える金券をプレゼントしています。

例えば、患者様の待ち時間対策として、
予約システムやコミュニケーションシステムをデジタル化しています。

例えば、調剤ミス、会計ミス、連絡ミスを撲滅して、
主体的によい接遇を提供するために、
スタッフマネジメントを工夫しています。

等々、枚挙に暇がありませんが、
動物病院の経営も、百貨店の経営も、
セオリーは共通しています。

電鉄系百貨店の生みの親である小林一三翁は言っています。
「すべての事業の対象は大衆であり、どんな仕事の末端も大衆につながっている」

不況期は、古典的大衆商法で経営することですね。

【まとめ】
・スタグフレーション化にはコモディティ化
・陳腐化しないためには限定化マーケティング
・ディスカウントやキャッシュバックは愚策
・WEBで新規客を追いかけるのは若気の至り
・不況期こそ地に足の着いた古典的大衆商法