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動物病院の組織崩壊を防ぐ。「仲良しクラブ」を脱却し、強い医療チームを作る「軸」の定め方

チームには、役割と責任の”軸”が必要です。 特に、命を預かる動物病院においては、「チーム医療」という名の厳格な軸が求められます。

複数のスタッフが互いに役割と責任を理解していると、チームとしてのパフォーマンスが向上します。逆に、役割と責任の”軸”がない組織は、忙しくなればなるほど、現場が疲弊し、最悪の場合、医療事故のリスクさえ高まります。

役割と責任の”軸”の好例として、ラグビーでよく語られる言葉があります。
One for all, all for one

これは、組織運営において、こう解釈するとチームが強くなります。
ひとりはみんなのために、みんなは『勝利』のために

攻撃は攻撃担当。守備は守備担当。 一人ひとりが献身的にプレーし、チームとしてつないだボールを、”勝利”という目的のためにトライする。規律に基づき、それぞれが自分の役割に集中するチームが、最終的に勝利を手にします。

ここで言う勝利とは、ビジネス一般で言えば売上や利益ですが、動物病院における勝利は、それだけでは語れません。「勝利(ゴール)」を、まず言語化する必要があります。

現場で腹落ちする形にすると、こう定義できます。

勝利(ゴール)=(1)飼い主価値の最大化 ×(2)健全経営の向上

(1)飼い主価値は、日々の診察現場ではこのような指標で見えます。

①安全性(安心して任せられる、医療安全が徹底されている)
②説明の質(インフォームド・コンセントが十分、不安が消せる)
③時間の管理(トリアージが適切、待ち時間のストレスが少ない)
④実体験(元気になってよかった、ここを選んでよかった)
⑤再現性(誰が担当しても一定の医療水準が保たれる)
この「飼い主価値」をチーム全員で共有できると、現場の判断基準が揃います。そして、役割と責任を決める理由が明確になります。

そのうえで、(1)を継続するためには、掛け算のもう一方である『(2)健全経営の向上』が不可欠です。

どれだけ高度な医療や手厚い看護を提供したくても、スタッフが疲弊し離職してしまえば、地域医療は継続できません。「健全経営」という土台があって初めて、私たちは動物たちの命を守り続けることができるのです。

ここで誤解されがちなのが、先ほどの “One for all, all for one” の解釈です。

「ひとりはみんなのために、みんなは『ひとり』のために」

言葉自体は美しいのですが、医療現場では、この解釈を一歩間違えると組織が歪みます。

「私が前に頑張ったんだから、次は配慮してよ」 「それ、私の仕事じゃないので」 「なんで私ばっかり?」

助け合いが「恩」や「借り」を生み始めた瞬間、エネルギーは患畜や飼い主様ではなく、内部の人間関係の調整(内部摩擦)に吸われます。 結果として、医療品質も、接遇も、採用も、定着も悪くなります。 助け合いが「感情の貸し借り」になると、現場は弱くなるのです。

だからこそ必要なのは、こういう軸です。 「役割分担」と「情緒的な平等」を混同しない。 「ひとりはみんなのために、みんなは『勝利(ゴール)』のために

この理解が深まれば深まるほど、役割分担の議論がスムーズになります。 具体的には、「獣医師がやるべきこと」と「やらない方がいいこと」を明確に決めることができます。

誤解のないように最初に書きます。 清掃・補充・滅菌・在庫管理などのオペレーションは、医療安全の土台です。決して軽い仕事ではありません。だからこそ、それを専門的に担い、獣医師が診療に集中できる環境を作るスタッフ(動物看護師やケアスタッフ)の存在が不可欠なのです。

そのうえで、チームが守るべき大原則はこれです。

獣医師の時間は「診療・判断・学習」に寄せる

若手獣医師(代診)であっても、以下の時間を確保する必要があります。

文献を読む
症例を振り返る
手技を磨く
診断推論を言語化する
この時間が削られると、数か月〜1年単位で病院の医療品質が低下します。「忙しいから仕方ない」が常態化すると、病院の将来が削られます。

ただし、これはあくまで「目指すべき理想のバランス」が整っている場合の話です。

当然ながら、獣医師に対して動物看護師の人数がアンバランスに少ない場合などは、ケースバイケースです。 物理的に手が足りない状況で、獣医師が「自分の役割ではないから」と動かなければ、現場は崩壊してしまいます。採用が追いついていない過渡期や、緊急時には、職種を超えてカバーし合う柔軟性もまた、チームワークの一つです。

しかし、重要なのは「それが常態化していないか?」という点です。 「人がいないから仕方ない」を言い訳に、本来獣医師が担うべき学習や思考の時間を削り続けていれば、いつか医療の質に限界が来ます。

現場でありがちなズレがこれです。 「(看護師は足りているのに)本を読んでいるなら、掃除を手伝って」「勉強は家でやって」

この空気が出ているなら、誰かが悪いのではなく、役割設計が曖昧です。 獣医師が清掃や在庫管理に時間を取られすぎている状態は、チームの役割設計を見直すサインです。

なぜなら、獣医師の思考が雑務で分断されることは、医療過誤(ヒヤリハット)のリスクを高める要因になるからです。 診療のことを考え続けている獣医師に、「掃除」というタスクを割り込ませることは、脳のスイッチを強制的に切り替えさせる行為であり、集中力を削ぎます。

チームが整えるべきは、「誰が偉いか」という上下関係でも、「みんなで同じ苦労をしよう」という情緒的な平等でもありません。 勝利(最良の医療提供と健全経営)のための「最適な役割分担」です。

獣医師は診断と治療に全力を注ぐ。 看護師・スタッフは環境とケア、飼い主様とのコミュニケーションに全力を注ぐ。

互いがプロとして、それぞれの領域で「One for all」を全うする。 もし現場から、「あの先生だけ楽をしている(掃除をしていない)」という不満の声が上がってきたら、それを”ノイズ”として捉えられるかが重要です。それは楽をしているのではなく、役割を全うしているのです。

思い出してください。「ひとりはみんなのために、みんなは『勝利』のために」。 感情的なノイズに負けず、冷静に医療チームとしての機能を維持できるかどうかが、強い病院を作る「軸」なのです。

One for all, all for one“. 「ひとりはみんなのために、みんなは勝利のために

あなたの病院では、どうでしょう。 勝利(成果)は言語化されていますか。 役割と責任は明確ですか。 目的に向かって、適切なチーム医療で戦えているでしょうか。

【まとめ】

“One for all, all for one”。「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」という解釈は、感情の貸し借りを生み、チームを内側から弱くしてしまうリスクがある。
「ひとりはみんなのために、みんなは勝利のために」という解釈であれば、勝利に向かって、適切なチームワークで戦いやすい。
チームを強くするのは、「勝利(飼い主価値×健全経営)」という目標の相互理解と、プロとしての「役割分担」の設計である。